Second life stage of retired

自衛隊定年退職者の雄叫び

自衛官必見! 若年定年退職者給付金を財産分与するな!(その1)

 自衛官の若年定年退職者給付金(以下、「給付金」という。)は、特に定年退職する前に離婚する場合、絶対に財産分与をしてはならない。

 というか、財産分与の対象となる財産にはならない。

 私は原告となって、陸上自衛隊を定年する数ヶ月前に離婚裁判を提訴した。

 その2年ほどくらい前に、私が自ら家庭裁判所へ離婚調停の申し立てをして調停を行った。調停しても離婚には応じないことは十分に予想できたが、離婚裁判をするには、一度でも調停を行う必要があった。調停は、予想どおり相手の「離婚しない」の一点張りで、1日で不成立となった。

 そこで、弁護士に依頼をし、裁判をすることとなった。

 子供は二人とも成人しているので、裁判において争点となったのが、財産分与である。とくに給付金が問題となった。

 私は、退職金について、半分は分与するものの、「給付金」については、財産分与の対象とならず、よって、分与はしないと主張した。

 当然、被告である元妻からは、反論があった。被告である元妻の親戚の中には、自衛隊を定年退職した者が二人(陸自と空自)おり、「給付金」を受給していたため、退職金と同様な財産分与の対象になると考え、被告は「給付金」をも財産分与に含めるよう反論してきた。

 給付金は、通常2回に分けて支給され、1回目は、定年退職時に支給される。これが、退職金と同じような取り扱いとして誤解される原因の一つではないかと考えられる。ちなみに、希望すれば、一括での受給も可能だが、この場合は、通常の2回目にあたる時期に支給されるので、退職してから2年ぐらいあととなる。

 私は、一括での受給を希望したので、退職時の1回目の給付金はなかった。

 したがって、退職金は退職後すぐに支給されたが、給付金は約2年後だった。

 原告である私は、「給付金」が退職金と異なり、財産分与の対象とはならない旨の主張を次のように行った。

 まず、法的根拠が異なることである。

 退職金は、「国家公務員退職手当法(昭和28年8月8日法律第182号)」(以下、「退職手当法」という。)により支給されるのに対し、

 給付金は、「防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年7月31日法律第266号)」(以下、「給与法」という。)により給付される。

 このように、法的根拠が異なる理由は、退職金と給付金のそれぞれの法的性質が異なるためである。すなわち、給付金は、退職金としての法的性質を有さないため、給与法で別途規定しているのである。

 最初に退職金であるが、退職手当法第7条により「退職手当の算定の基礎となる勤続期間の計算は、職員としての引き続いた在職期間による。」とされ、過去の在職期間により算定される。

 したがって、退職金は、過去の労働力の対価としての法的性質を有する。

 判例においても退職手当の支給条件が、すべて法定されていて、国に裁量の余地がないこと等を理由として、退職手当の賃金性を肯定している(最高裁昭和43年3月12日第3小法廷判決・民集22巻3号562頁)。

 このことから、退職金は、婚姻(同居)期間中の労働力によって生じた賃金(財産)であるから、当然に財産分与の対象となり得る。

 これに対して給付金は、給与法第27条の2により支給されるものの、ただし書きにおいて、退職の日又はその翌日に国家公務員又は地方公務員となったときは、給付金は支給されないと規定されている。

 さらに同法第27条の4では、「若年定年退職者の退職した日の属する年の翌年(以下「退職の翌年」という。)におけるその者の所得金額」により、支給額が調整される、としている。

 そして、若年定年退職者の退職の翌年における所得金額がその者に係る支給調整上限額以上である場合、第2回目の給付金は、支給されない。

 また、第1回目の給付金の支給を受けた若年定年退職者の退職の翌年における所得金額が同法第27条の4第3項第1号及び2号のいずれかに該当する場合には、その者は、当該各号に定める金額を返納しなければならない、と規定している。

 すなわち、給付金は給与法により「退職後の翌年の所得金額」によって調整され、場合によっては、2回目は支給されず、また、1回目に支給された給付金を返納することもある。

 したがって、給付金は、過去の労働力の対価としての法的性質を有する退職金とは異なると解される。

 簡単にいうと給付金は、退職後の再就職における所得の減少を補填するものであって、所得が減少していないときは、給付金による補填は必要なしとされるものなのである。

 そうすると、給付金は再就職によって得る所得の一部として構成され、退職後における再就職での新たな労働力によって生ずる労働賃金としての法的性質を有すると解するのが妥当である。

 ここで、仮に定年退職の数ヶ月前に離婚が成立したとしよう。

 給付金も退職金と同様な法的性質であると解釈し、給付金の半分を財産分与したとする。

 そして、その後、定年退職の翌日に、防災担当として地方公務員に採用されたとしたならば、給付金は給与法第27条の2但し書きの規定により支給されない。

 しかし、もらうはずの給付金の半分相当額を既に財産分与とした。

 よって、離婚後に地方公務員として得た所得をもって、財産分与をしなければならない、離婚後の所得が財産分与の対象として取り扱われるという、おかしな話になる。

 離婚の成立が判決によらず和解になったとしても、後になって、給付金が支給されないから、あるいは減額され、返納したから、財産分与の額を見直しして減額された分を返せと言えるであろうか。 

 また、この場合、不当利得として返還請求が認められるだろうか。

 あるいは、給付金の分だけ錯誤無効と主張することができるのであろうか。

 多分、経済的不利益が生じるだけであろう。

 それより、むしろ最初から、

 退職金は、過去の労働賃金(婚姻期間中に生じた財産)

 給付金は、将来の労働賃金(離婚後に生じる財産、しかし、賃金が減少していなければ、補填される給付金はない。その意味で、退職金の割増でもない。

と考えるのが法的性質上、妥当である。

 よって、給付金は特有財産であり、財産分与の対象とはならないのである。

 私の裁判では、裁判官が原告である私の主張を認めてくれた。

 ただし、和解となったため、妥協案として給付金から300万円を財産分与とした。だが、元妻に対してではなく、二人の子供にそれぞれ150万円を分与するとしたのである。

 

 

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