「朝日新聞デジタル」によれば、自衛隊に名簿を提供するのは違憲だとして、18歳高校生が奈良地裁に国家賠償請求の裁判を起こした。「自衛隊に名簿提供は違憲」 18歳高校生が奈良地裁に国賠提訴(https://www.asahi.com/articles/ASS3Y2VWKS3YPOMB006M.html)
1 事実の概要
奈良市は、高校生の氏名、生年月日、性別、住所の個人情報含んだ名簿を自衛隊に提供、自衛隊は高校生に自衛官募集の案内を郵便はがきで送った。高校生は、これらが、プライバシー権を保障した憲法13条や個人情報保護法などに違反しているとして、国と市に慰謝料などの支払いを求めた。
2 名簿提出の根拠
自衛隊法第97条第1項「都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う。」
自衛隊法施行令第120条「防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる。」
3 プライバシー権侵害の検討
憲法第13条では、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定している。この条文中の幸福追求権がプライバシー権とのかかわりがある。すなわち、幸福を追求するためには、個人の知られたくない権利が含まれるということである。
幸福追求権は、学説が大きく二つあり、「人格的利益説」と「一般的自由説」である。「人格的利益説」は、人格的生存に不可欠な利益の権利であるとし、「一般的自由説」は、あらゆる生活領域に関する行為の自由が保障されている、というものである。「人格的利益説」が通説となっている。「一般的自由説」は、保護の客体が無限になるのに対し、「人格的利益説」は、個人の尊厳の原理との不可分が認められることから、通説が妥当であると考える。
では、氏名、生年月日、性別、住所の個人情報の提供が幸福追求権としてのプライバシー侵害にあたるのか。まず、情報の提供については、自衛隊法に基づき実施され、その目的も募集業務に限定されることが明らかである。個人情報の保護に関する法律(以下、「個人情報保護法」という。)第8条では、「国は、その機関が保有する個人情報の適正な取扱いが確保されるよう必要な措置を講ずるものとする。」とされ、自衛隊法により募集業務に限定された適正な取り扱いが確保されているので、個人情報保護法には違反しない。
つぎに、個人情報の提供による自衛官募集の案内が、幸福追求権及びプライバシー権の侵害となるか。すなわち、氏名、生年月日、性別、住所が知られたことにより自衛官募集の勧誘を受けることになるが、これが、人格的生存に不可欠な利益が失われたことになるか否かが問題となる。氏名、生年月日、性別、住所は、学校や病院などにおいても開示され、これらは、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。また、自衛官募集の勧誘についても、郵便はがきで送られてきており、他人に知られる可能性は低く、さらに、勧誘があっても拒否の選択が可能であり、職業選択の自由を侵害するものではないから、人格生存に不可欠な利益が失われたとはいえない。
4 結論
氏名、生年月日、性別、住所の情報提供は、法令に基づき適正に取り扱いが確保されている。また、情報そのものは、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえず、募集の案内についても拒否の選択が可能である。よって、個人情報保護法及び憲法13条には違反しない。
-
-
自衛隊は普段何をやっているのか
一般の人からは、「自衛隊は普段何をやっているの?」との質問を受けることがあるが、当然に戦闘に必要な訓練を行っているのだが、それが具体的によくわからない、と言われる。 自衛隊の訓練は、陸上自衛隊を例にす ...