陸自によると、事故は2025年3月13日午後6時45分ごろ、ヘリからの降下を想定したレンジャー訓練中に発生。第12旅団のレンジャー隊員が高さ約15メートルの訓練塔からロープで地上に下りる準備をしていたところ、所持していた5.56ミリ機関銃(重さ約7キロ)が落下し、下にいた2等陸曹(41)の左胸に直撃した。
2曹は地上から監視する係で、搬送先の病院で死亡が確認された。死因は心臓に打撃を受けたことによる心損傷だった。(参考1)
陸自警務隊は、同年6月24日、同駐屯地の第13普通科連隊に所属する3等陸曹の20代男性を業務上過失致死容疑で書類送検した。陸自によると、容疑を認めているという。(参考2)
3等陸曹は事故当時、機関銃の前後2カ所に付いているナイロン製のひもを肩にかけていたが、ひもが外れて機関銃が落下したとされる。外れた原因について陸自は「今後の捜査に支障が出る恐れがある」として明らかにしていない。(参考3)
これは、訓練中に発生した事故である。しかし、機関銃を落下させた3曹に刑事罰を与えるべきか否かが問題となる。
刑法211条「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。(以下、省略)」
「業務」とは、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいい、この場合、自衛官としての地位に基づき、武器等を使用して反復継続して行う訓練であり、武器等の取り扱いによっては、他人の生命身体等に危害を加えるおそれがあった。したがって、刑法211条の業務上過失致死傷罪の「業務」に該当する。
「必要な注意を怠り」とは、注意義務違反のことで、訓練中は周囲にも他の隊員がいるので、もし自分が持っている銃が誤って他の隊員に当たれば、ケガをするかもしれないとする予測(刑法では「予見可能性」という。)に基づいて、注意を払う義務があり、これを怠ると注意義務違反となる。
本件では、機関銃を身体に固定する際に、ひもが外れないようにすることが、「必要な注意」となる。
事故が起きたレンジャー訓練は、ヘリからの降下を想定したものであるが、通常、ヘリからの降下は1名のみならず、複数名が次から次へと降下する。したがって、先に降下した隊員に、後から降下する隊員の銃が当たらないようにする注意義務は、当然のこととなる。
本件の争点は、被疑者が「ひもが外れるかもしれない。」とする予見可能性があったか否かである、と私は考える。
しかし、被疑者の予見可能性があったとしても、先に降下した隊員に、後から降下する隊員の銃が当たらないようにする注意義務は、当然のことであるから、ひもが外れないような教育指導を事前に行っていたか、また、降下訓練を開始する直前に外れない状態であったかを安全係が直接点検したかなど、組織的な安全管理体制にも問題があったのではないかと予想する。
よって、もし、組織的な安全管理体制に問題があったとするならば、一個人のみに刑事責任を科すのは、妥当とはいえないと考える。
参 考
(1)時事ドットコムニュース、参照 https://www.jiji.com/jc/article?k=2025031400799&g=soc
(2)自衛隊法第96条で、自衛官の犯罪(同条第1号)、自衛隊の施設内での犯罪(同条第2号)については、警務隊が司法警察職員として刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の規定に基づき、警察官と同様に捜査、取り調べを行い、検察に送検することができる。
(3)毎日新聞デジタル、参照 https://mainichi.jp/articles/20250624/k00/00m/040/338000c