東京新聞デジタルによれば、陸上自衛隊の女性隊員による自民党大会での国歌歌唱に関し、市民団体のメンバーらは28日、政治的行為を制限する自衛隊法に抵触する疑いがあるとして、隊員らに対する自衛隊法違反容疑での告発状を東京地検特捜部に提出した。高市早苗首相や小泉進次郎防衛相も、同法違反ほう助の疑いがあると主張している、と報道した。(2026年4月28日 15時22分 (共同通信)配信、https://www.tokyo-np.co.jp/article/484932)
自衛官に限らず公務員は、政治的行為が法律により制限されている(自衛隊法61条、国家公務員法第102条、地方公務員法第36条)。自衛官の場合は、政治的行為を行うと自衛隊法第119条第1項第1号に罰則規定があり、3年以下の拘禁刑となる。
自衛隊法による罰則規定も刑法と同様に取り扱われる。したがって、刑法における犯罪として成立させるためには、3つの要件が必要とされる。それは、①構成要件該当性、②違法性 ③有責性である。
まずは、①構成要件該当性であるが、国歌歌唱が自衛隊法で制限されている政治的行為となるか否かが問題となる。政治的行為とは、政治的目的のための行為をいい、具体的には特定の政党や議員を支持する目的のためにする行為のことである(自衛隊法施行令第86条、第87条)。
「猿払事件」(最高裁昭和49年11月6日大法廷判決、刑集28巻9号393頁)の判決では、「政治的行為」の禁止そのものの憲法適合性について、①禁止目的が「行政の中立的運営」の確保とするとしたうえで、②この目的と禁止される「政治的行為」の関連性、③それを得られる利益と失われる利益の均衡を問題としている(1)。
歌唱したのは、自衛官ではあるものの、国歌歌唱そのものは、直接的に政党を支持するための政治的行為との関連性は考えられない。また、当事者は、依頼を受け応じたものと考えられ、政治的行為を行う意思はなく、自民党の支持のため自ら積極的に参加したのではないから、故意もないと考えられる。したがって、構成要件には、該当しない。
次に②違法性であるが、構成要件に該当しないのであるから、違法性は存在しない。
最後の③有責性について、責任能力はあるが、構成要件には該当せず、また、違法性もないことから、責任非難も存在しない。
よって、この事件に関しては、自衛隊法違反にはならないと考える。
参考文献
(1)樋口陽一著「公務員の「政治的行為」と罰則、猿払事件」「別冊ジュリスト憲法判例百選Ⅰ」有斐閣、1994年