自衛隊には、多くの物品が存在する。隊員に貸与する制服や戦闘服をはじめ、庁舎内の書棚や机、事務用品のほか、戦車や車両、航空機に至るまで、その数は多い。
自衛隊(防衛省)に限らず、他の省庁においても、多くの物品が存在する。そのような国家の行政機関である各省庁が保有する物品は、「物品管理法(昭和31年法律第113号)」という法律で適正な管理をすることが義務付けられている。
では、なぜ、このような法律で適正な物品管理がなされているのか。
それは、国民の税金により取得した物品であるため、大切に使用することが、まず、第一の条件となる。
そして、第二の条件は、自衛隊や海上保安庁などが任務を遂行するために、常に整備され保管し、いつでも使用できる状態にしておくためである。特に隊員個人に貸与された個人装備火器である89式5.56mm小銃などは、有事の際に国民を守るのみならず、隊員個人の生命をも守る物品であることから、常に良好に整備され使用が可能な状態に維持されていなければならないのである。89式5.56mm小銃などは、海上保安庁や警察の特殊部隊にも配備されており、自衛隊と同様に正当防衛や緊急避難で武器の使用が法律で認められていても、整備不良で不発となったのでは、自己の身も守ることはできないからだ。
さて、この「物品管理法」という法律は、法律学的に行政法という分野に属するが、条文を普通に読んでも意味が分からない部分があるはずである。
たとえば、第27条の不用の決定等である。条文では、次のようになっている。
第27条 物品管理官は、供用及び処分の必要がない物品について管理換若しくは分類換により適切な処理をすることができないとき、又は供用及び処分をすることができない物品があるときは、これらの物品について不用の決定をすることができる。この場合において、政令で定める物品については、あらかじめ、各省各庁の長又は政令で定めるところによりその委任を受けた当該各省各庁所属の職員の承認を受けなければならない。
2 物品管理官は、前項の規定により不用の決定をした物品のうち売り払うことが不利又は不適当であると認めるもの及び売り払うことができないものは、廃棄することができる。
「供用」とは、簡単に言えば、使うということである。
「処分」といえば、普通は「捨てる」という意味である。そうすると、第27条第1項の「処分する(捨てる)ことができない物品」があるときは、同条第2項で「廃棄することができる。」とされている。
「廃棄」も普通は「捨てる」という意味である。だが、そうなると、「捨てることができない物品を捨てる」という矛盾が生じる。
ここは、法律の解釈上の問題もあるが、「物品管理法」での「処分」とは、①物を消費して使ってなくする、②物を売り払い又は廃棄してなくする、の二つの意味があると解釈した方が分かりやすい。特に条文の中での「処分」とは、①物を消費して使ってしまう、という意味合いが強い。たとえば、簡単な例として、燃料や食材などがある。食材は、「防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年法律第266号)」の第20条で、「政令で定める職員には、政令で定めるところにより、食事を支給する。」との規定があることから、調達により取得する。しかし、何らかの事情でそれらが使えない場合、たとえば、500人分の隊員の食事を与えるために調達したが、大規模災害により、200名が災害派遣に急遽出動したとき、200人分の食材を使わないことになる(その200名の食事は携行食として支給されるため)。そのような場合、その200人分の食材を手続き上の問題から、すぐに売り払うことはできない。したがって、200人分の食材を処分(消費)できず、売り払うことはできないため、廃棄(処分)することになる。
自衛官の中でも、物品管理に関わる事務をしている方は多いと思われるが、根拠となる「物品管理法」の条文の「処分する」とは、多くの場合、「消費する」と解釈し理解した方が分かりやすい。ただし、「売り払い、廃棄する」という意味のときもあるので、注意が必要である。