若年定年退職者給付金(以下、「給付金」という。)は、再就職後の所得減を補填するもので、将来における収入に対しての補填である。
2020年(令和2年)7月11日付の日本経済新聞によれば、
「東京海上日動火災保険は7月中旬から、親族の介護のために時短勤務をすることになった人に対し、所得の減少を補償する保険商品を取り扱う。企業を契約者とし、働き盛りの人材が介護のために離職するのを避けたい企業を取り込む。」
という内容の記事が記載されていた。
これは、所得の減少を補償するという点で、一見すると自衛隊の給付金制度と同様である。また、人材を確保するという点では、その目的も同じである。
そこで、この点のみに注目すると、給付金制度が自衛隊にしか存在しない特殊な制度ではないように誤解される。
しかし、次のような点で異なる。
企業の場合は、
自社社員を対象とし、現在の所得を補償するものであるのに対し、
自衛隊の場合は、
他社社員(自衛隊を退職し他社で働く社員)を対象とし、将来の所得を補填する点である。
自衛隊の給付金制度で重要なのは、将来の所得を補填する制度であり、離婚後に得る所得を補填する機能を有することである。このため、給付金は財産分与の対象とならないのである。
したがって、単に給付金が所得の減少を補填するものであるとか、自衛隊の人材を確保するための政策的手段であるとかの説明だけでは、裁判官や弁護士に財産分与の対象とはならないとする主張として、不十分になるので注意が必要である。
あくまで、婚姻外(離婚後)に発生する所得であることを主張することが重要である。