前回は、自衛官の若年定年退職者給付金(以下、「給付金」という。)は、法的性質上、財産分与の対象とならない旨を説明した。
今回は、もう少し、具体例を示し、理解しやすいように説明する。
前回の内容では、退職金は過去の労働賃金、給付金は将来の労働賃金として説明した。しかし、給付金は、必ずもらえる将来の労働賃金ではない。給付金は、再就職によって賃金の減少による経済的不利益が生じた場合にのみ、給付金により賃金を補填し、その経済的不利益を解消させようとする機能を有するものである。
したがって、給付金は退職金と同じような過去の労働力の対価としての機能を有するものではない。
さらに、給付金は若年で退職させるための退職金の割増でもない。もし、退職金の割増であるならば、再就職の所得に関係なく一律に支給すべきものでなければならないからである。
では、具体例を示す。収入は再就職での収入とする。
Aさん 収入は3分の1に減少、給付金により補填、給付金全額支給
Bさん 収入は若干減少するもののほとんど変わらず、給付金はゼロ
給付金を財産分与とするべきとするならば、
Aさん 退職金と給付金を財産分与
Bさん 退職金のみを財産分与
という結果になる。再就職での収入が減少したAさんが、Bさんよりも多くの額を財産分与として支払わなければならないことになる。
AさんとBさんの退職金は、ほぼ同じ、また、再就職後では、Aさんは給付金の補填により、ほぼBさんと同じ所得水準であっても、AさんのほうがBさんよりも財産分与の額が多くなる。
AさんとBさんの退職金がほぼ同じということは、自衛隊在職中の給与もほぼ同じである。同じ頃に入隊し、階級も大差なくして定年したことになる。
異なるのは、再就職後における所得の格差のみである。
したがって、自衛隊在職中の収入から考えれば、AさんもBさんも財産分与の額は同じようなものであるはずなのに、給付金をも財産分与の対象とされたために、Aさんのほうが財産分与の金額が多く計算されているのである。
Aさんにしてみれば、再就職で所得が減少したのみならず、財産分与の額も多く支払わなければならないことになり、二重の経済的不利益を被ることになるのである。
もう一度
退職金は、過去の労働賃金(婚姻期間中に生じた財産)
給付金は、将来の労働賃金(離婚後に生じる特有財産、しかし、賃金が減少していなければ、補填される給付金はない。その意味で、退職金の割増でもない。)
を忘れないでほしい。
定年退職する前に離婚する場合、給付金を絶対に財産分与してはならない。