自衛隊の戦術に攻撃と防御がある。民事訴訟、すなわち民事裁判においても攻撃と防御がある。民事裁判の場合は、訴えを起こす原告側が攻撃し、被告側が防御することになる。
たとえば、相手側が原告となって「給付金を財産分与せよ」と訴えて請求してきた場合は、それが攻撃となり、被告となったこちら側は、「給付金は、法律上過去に形成された財産ではないから財産分与の対象にはならない」と答弁し、相手側の請求の却下を求めることが防御となる。
また逆に、こちら側が原告となって訴える場合は、「離婚を求めるが給付金は、財産分与の対象とはならないので、給付金は財産分与しない」と離婚の請求をして攻撃するのに対し、被告である相手側は、「離婚を求めるのであれば、給付金をも財産分与せよ」と防御してくることになる。
攻撃と防御は、どちらが裁判を起こすかで決まるだけで、攻撃が有利になるとは限らない。民事裁判では、攻撃または防御について、その方法を制限するためにこの言葉が使われているのである。相手側が原告となって攻撃する場合、「給付金を財産分与せよ」と請求して裁判が行われたが、終盤になって、これでは裁判に負けると判断し、何が何でも金銭を請求してやろうと、「被告との婚姻期間中に精神的な嫌がらせが何度も繰り返されたので、その賠償を求める」と新たに損害賠償請求を追加するとすれば、そのための防御の準備期間なども必要となって、裁判が長引いいてしまう。最初からまとめて請求していれば、同時進行で裁判が進められたのに、終盤になって新たに攻撃を加えると訴訟の完結が遅延してしまうため、民事訴訟法では、故意または重大な過失がある場合、このような攻撃方法を認めないとしているのである。
給付金についての攻撃あるいは防御の方法としては、その制度が自衛隊にしか存在しない特殊な制度であり、民間企業では絶対に有り得ない制度であるから、制度趣旨を踏まえつつ法解釈し、給付金は、過去に形成された賃金である退職金ではなく、未来の労働賃金を補填するためのものであって、そういう意味で未来の労働賃金の一部を構成するものとしての性質があることから、財産分与の対象とはならない、と主張することである。
そして、最も重要なことは、そのような給付金制度の特殊性をきちんと理解してくれる弁護士を選んで委任することである。