前回では、若年定年退職者給付金が創設された経緯を踏まえながら、その制度趣旨と特殊性について説明した。
ここで、あることに気がついた方はいるだろうか。
自衛官の定年を一般職国家公務員と同様に60歳にすれば、給付金制度は必要ないのである。なぜならば、給付金制度は、一般職国家公務員よりも早く定年した退職自衛官に対し、60歳になるまでの間に、再就職によって減少した所得を補填するものであるからである。
では、なぜ、自衛官の定年は一般職国家公務員より早いのか。
自衛隊の部隊等に勤務する自衛官は、国家防衛の観点から体力面で、ある程度精強性を維持しなければならず、このような公益性を達成させる目的で、50代の前半で退職するような形になっているのである。
そこで、この早期退職の代表的な性格を踏まえ、以前は、定年後から特例により共済年金が支給されていたが、財政的な事情により特例を維持することが困難と予想されたため、1990年(平成2年)に年金の特例を廃止するとともに、若年定年制から生じる個人の経済的不利益を補う施策を取りいれ、自衛官として適正な人材を国が確保するための政策的手段として、若年定年退職者給付金制度が発足したのである。したがって、制度的に給付金が年金や退職金とは関係のない独自のものとなっており、自衛隊にしか存在しない特殊な制度なのである。
このように、自衛官の若年定年退職者給付金制度は、早期退職によって一般職の国家公務員よりも経済的に不利益となるため、それを解消する人事的施策であり、また、適正な人材を国が確保する政策的手段なのである。
この給付金は、自衛隊にしか存在しない特殊な制度であり、年金や退職金とは関係のない独自なものであるから、これを一般人や裁判官、弁護士などに理解してもらうためには、どのように説明するべきか。
私は、「防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年7月31日法律第266号)」の条文の解釈として、今まで述べてきたように将来の賃金として説明したほうが、制度趣旨の内容から逸れることなく適切に説明ができるものと考えている。実際に自分の裁判では、そのように主張し、理解を得た。
もちろん、別の方法で説明して、給付金が離婚の際における財産分与の対象とならないことが、十分に理解してもらえるのであれば、それでもよいであろう。
とにかく、絶対に若年定年退職者給付金を財産分与してはいけないことを忘れるな、と言いたい。