今回は、若年定年退職者給付金(以下、「給付金」という。)について、もし、裁判となった場合に、「防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年7月31日法律第266号)」(以下、「給与法」という。)の条文を提示し、財産分与の対象とはならないと主張しなければならないが、その際に提示すべき重要な条文などについて示すとともに、なぜ財産分与の対象とならないかを解釈しながら具体的に説明する。
第27条の2(若年定年退職者給付金の支給)
給付金の対象となる若年定年退職者の要件についての規定である。この規定では、ただし書きが重要で、
「ただし、その者が当該各号に規定する退職の日又はその翌日に国家公務員又は地方公務員(これらの者で臨時的に任用されるものその他の任期を定めて任用されるもの及び非常勤のものを除く。)となったときは、この限りでない。」
とされており、全ての若年定年退職者に給付金が支給されるものではないことが規定されている。
したがって、退職金と法的性質が異なり、不支給となる場合も有り得る。
第27条の3(給付金の支給時期及び額)
第1項では、給付金が二回に分割されて支給されるとし、その時期は、「若年定年退職者の退職した日の属する月後最初に到来するものに第一回目」が、そして、「退職した日の属する年の翌々年の防衛省令で定める月に第二回目」となるとされている。
そして、第2項では、給付金の額の算出方法についての規定があり、この算出方法が重要となる。
「第一回目の給付金及び第二回目の給付金の額は、退職の日においてその者の受けていた俸給月額( 略 )に算定基礎期間(退職の日において定められているその者に係る定年に達する日の翌日から自衛官以外の職員の定年に達する日までの期間をいう。以下同じ。)の年数を乗じて得た額に第一回目の給付金にあっては一・七一四を、第二回目の給付金にあっては四・二八六をそれぞれ乗じて得た額に、第一回目の給付金及び第二回目の給付金の支給される時期並びに算定基礎期間の年数を勘案して一を超えない範囲内でそれぞれ算定基礎期間の年数に応じて政令で定める率を乗じて得た額とする。」
と規定されている。
給付金は、算出方法として算定基礎期間というものから計算しているのであるが、この算定基礎期間について、条文ではカッコ書きで説明され、これが重要なポイントとなる。
条文では、算定基礎期間を「退職の日において定められているその者に係る定年に達する日の翌日から自衛官以外の職員の定年に達する日までの期間をいう。」と説明書きしているが、これはどういう意味かというと、自衛官の定年は階級によって異なるので、必ず何歳からとは規定できず、したがって、「退職の日において定められているその者に係る定年に達する日」と法律では、定年となる日のことを表現しているのである。そして、一般の公務員が定年となる日を「自衛官以外の職員の定年に達する日」と表現し、若年で定年した日の翌日から一般の公務員が定年する日までの期間を算定基礎期間として給付金の額を計算するよう規定がなされているのである。
たとえば、私の場合は、当時の階級で、54歳で定年となったが、一般の公務員が定年するのが60歳であるとすれば、定年となった54歳から60歳となる日までの期間を算定基礎期間とし、この間の年数(正確には、次の第3項で月数に勘案して計算される)で給付金の額を算出することになるのである。
したがって、退職金は、在職してから定年に至るまでの過去の「在職期間」で計算しているのに対し、給付金は、定年してから、一般の公務員が定年する60歳に至るまでの未来の期間を「算定基礎期間」として、計算しているのである。
よって、給付金が、過去の婚姻期間中に夫婦の協力によって得た財産ではなく、財産分与の対象にはならないことになる。
第27条の4(所得による給付金の額の調整等)
この条文は、以前にも説明したが、最も重要となるので、今回は、以前よりも詳しく説明する。定年退職した時点では、将来の所得は分からない。そこで、所得が判明した時に、あらためて所得を補填すべきか否かを決めようとする規定なのである。したがって、給付金は、この規定に基づいて将来の所得を補填するものであって、また、給付金はその意味で将来の賃金の一部となるものであり、この条文により、給付金が退職金のように過去の賃金ではないことを証明しているのである。
「若年定年退職者の退職した日の属する年の翌年(以下「退職の翌年」という。)におけるその者の所得金額が支給調整下限額(その者が退職の翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合においてその年に受けるべき俸給、扶養手当、営外手当、期末手当及び勤勉手当の合計額として政令で定めるところにより計算した額に相当する額(以下「給与年額相当額」という。)からその者に係る俸給月額に六を乗じて得た額を減じた額をいう。以下同じ。)を超え、支給調整上限額(その者に係る給与年額相当額からその者に係る俸給月額に一・七一四を乗じて得た額を減じた額をいう。以下同じ。)に満たない場合には、前条第二項及び第三項の規定にかかわらず、第二回目の給付金の額は、これらの規定により計算した第二回目の給付金の額に相当する額に、その者に係る支給調整上限額から退職の翌年におけるその者の所得金額を減じた額をその者に係る支給調整上限額からその者に係る支給調整下限額を減じた額で除して得た率を乗じて得た額とする。」
給与法第27条の4第1項では、政令で定める計算も含まれるが、給付金の支給について、所得に応じてどのように調整するかの規定であり、法律では下限額と上限額を現役時代の所得から計算して定め、下限額を超えて上限額に満たない場合は、所得額によって調整し、2回目の給付金を減らすという規定となっている。
そして、第2項で、
「若年定年退職者の退職の翌年における所得金額がその者に係る支給調整上限額以上である場合には、前条第一項の規定にかかわらず、第二回目の給付金は、支給しない。」
と規定され、現役時代の所得から計算されて定められた上限額以上の所得があった場合は、2回目の給付金は、まったく支給されないのである。
さらに、第3項で、
「第一回目の給付金の支給を受けた若年定年退職者の退職の翌年における所得金額が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、当該各号に定める金額を返納しなければならない。
一 その者に係る支給調整上限額を超え、その者に係る給与年額相当額に満たない場合 その者の支給を受けた第一回目の給付金の額に、その者の退職の翌年における所得金額からその者に係る支給調整上限額を減じた額をその者に係る給与年額相当額からその者に係る支給調整上限額を減じた額で除して得た率を乗じて得た額に相当する金額
二 その者に係る給与年額相当額以上である場合 その者の支給を受けた第一回目の給付金の額に相当する金額」
と規定されており、現役時代と変わらない賃金の額を法律では、「給与年額相当額」とし、給付金支給のための上限額を超えてはいるものの、現役時代の給与より少ない場合は、2回目の給付金が不支給となるのみにならず、すでに支給された1回目の給付金の一部を返納しなければならないのである。
さらに、現役時代よりも高額な所得がある場合は、1回目の給付金を全額返納しなければならず、給付金は不支給となるのである。
このように、給付金は、将来の所得により調整され最終的に支給額が決定されるものであるから、給付金には、退職金のように過去の賃金を精算する機能が法律上存在しないことになる。
よって、給付金は、法的性質上、過去の婚姻期間中における夫婦の協力によって得た財産となることは、法律の解釈上ありえず、したがって、給付金は財産分与の対象にはならないのである。
給付金に関する規定は、給与法第27条の2から同法第27条の16までの15ヶ条がある。そして、給付金が財産分与の対象とならないことを法律の解釈から説明するうえで重要な条文が、
第27条の2(若年定年退職者給付金の支給)
第27条の3(給付金の支給時期及び額)
第27条の4(所得による給付金の額の調整等)
の3ヶ条であり、これらの条文を給付金の制度趣旨に基づいて解釈して、給付金が婚姻期間中に得た財産ではないので、財産分与の対象にはならないと説明し、主張することが重要なのである。