若年定年退職者給付金(以下、「給付金」という。)について、「防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年7月31日法律第266号)」(以下、「給与法」という。)の条文を具体的に説明しながら、財産分与の対象に該当しないことについて述べる。
まず、給付金について規定している給与法第27条の2について、条文は次のようになっている。
第27条の2【若年定年退職者給付金の支給】
自衛官(自衛隊法第45条の2第1項の規定により採用された自衛官を除く。第27条の4第1項並びに第27条の8第1項第1号及び第2項第2号において同じ。)としての引き続いた在職期間(第27条の8から第27条の10まで、第27条の12及び第27条の13において単に「在職期間」という。)が二十年以上である者その他これに準ずる者として政令で定める者(以下「長期在職自衛官」という。)であつて次の各号のいずれかに該当するもの(以下「若年定年退職者」という。)には、若年定年退職者給付金(以下「給付金」という。)を支給する。ただし、その者が当該各号に規定する退職の日又はその翌日に国家公務員又は地方公務員(これらの者で臨時的に任用されるものその他の任期を定めて任用されるもの及び非常勤のものを除く。)となつたときは、この限りでない。
1 略
2 略
3 略
この条文で重要なのは、ただし書きの規定で、この規定によって、すべての退職自衛官が給付金を受給できるとは限らないことになる。これは給付金が、退職金とは違うことを示し、給付金が退職金と同様に必ずもらえるものではないことを意味する。
しかし、これだけでは説明が不十分で、弁護士や裁判官のなかには、「あなたの場合は支給されますよね。」と言って財産分与の対象となる可能性がある。
そこで、重要なポイントが財産分与とは何か、ということを理解し、それを前提に説明する必要がある。
まずは、民法768条1項に
「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」
とされ、さらに同条第2項及び3項では、
「2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。」
「3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」
とされている。(裁判上の離婚も771条により768条が準用されるので、協議上の離婚の場合と同じである。)
では、この場合の分与すべき財産の範囲はどれくらいなのか。その根拠となるのが民法755条から762条までで、ここに夫婦財産制の規定があり、簡単にいえば、婚姻期間中に得た財産が当事者双方の協力によって得た財産となり、財産分与の対象となる範囲と考えれば分かりやすい。したがって、婚姻前に取得した財産は、範囲に含まれない。また、離婚後に得る財産も当然範囲に含まれない。
退職金は、学説において、賃金後払い説、功労報償説、生活保障説などがあるが、今では、これらがすべて含まれたものと考えられ、判例では、国家公務員の退職金は労働基準法の賃金に該当するとして、賃金性を肯定した(最高裁昭和43年3月12日第3小法廷判決・民集22巻3号562頁)。したがって、退職金は、過去の労働力の対価としての法的性質を有する。また、「国家公務員退職手当法(昭和28年8月8日法律第182号)」第7条により「退職手当の算定の基礎となる勤続期間の計算は、職員としての引き続いた在職期間による。」とされ、退職金は、過去の在職期間により算定される。
このため、婚姻期間と職員として在職する期間が重複する部分の退職金は、夫婦の協力によって得た賃金(財産)となるため、退職金は財産分与の対象となる。
しかし、給付金は、退職金と異なり、まず、算定の方法が違う。
なぜならば、「自衛官の若年定年退職者給付金の制度趣旨」のその1及びその2で述べたように、給付金は定年退職時から60歳に至るまでの収入を補填するための制度であり、したがって、給付金は退職金のように過去の実績(在職期間)に基づく算定とはなっていない。これが、婚姻期間中に得た財産に該当しない理由になる。また、補填する制度といえども、一定の収入がある場合は、補填されないため、給付金は、退職後の収入を基準として算定しているこが明らかであり、退職金のように過去の労働力の対価としての賃金性は生じない。
第27条の4【所得による給付金の額の調整等】
若年定年退職者の退職した日の属する年の翌年(以下「退職の翌年」という。)におけるその者の所得金額が支給調整下限額(その者が退職の翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合においてその年に受けるべき俸給、扶養手当、営外手当、期末手当及び勤勉手当の合計額として政令で定めるところにより計算した額に相当する額(以下「給与年額相当額」という。)からその者に係る俸給月額に六を乗じて得た額を減じた額をいう。以下同じ。)を超え、支給調整上限額(その者に係る給与年額相当額からその者に係る俸給月額に一・七一四を乗じて得た額を減じた額をいう。以下同じ。)に満たない場合には、前条第2項及び第3項の規定にかかわらず、第二回目の給付金の額は、これらの規定により計算した第二回目の給付金の額に相当する額に、その者に係る支給調整上限額から退職の翌年におけるその者の所得金額を減じた額をその者に係る支給調整上限額からその者に係る支給調整下限額を減じた額で除して得た率を乗じて得た額とする。
2 若年定年退職者の退職の翌年における所得金額がその者に係る支給調整上限額以上である場合には、前条第1項の規定にかかわらず、第二回目の給付金は、支給しない。
3 第一回目の給付金の支給を受けた若年定年退職者の退職の翌年における所得金額が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、当該各号に定める金額を返納しなければならない。
①その者に係る支給調整上限額を超え、その者に係る給与年額相当額に満たない場合 その者の支給を受けた第一回目の給付金の額に、その者の退職の翌年における所得金額からその者に係る支給調整上限額を減じた額をその者に係る給与年額相当額からその者に係る支給調整上限額を減じた額で除して得た率を乗じて得た額に相当する金額
②その者に係る給与年額相当額以上である場合 その者の支給を受けた第一回目の給付金の額に相当する金額
4 前三項に規定する所得金額は、所得税法第27条第2項に規定する事業所得の金額と同法第28条第2項に規定する給与所得の金額との合計額を同項に規定する給与所得の金額と仮定した場合において当該金額の計算の基礎となるべき同項に規定する給与等の収入金額に相当する金額とする。ただし、退職の翌年の途中から就業した若年定年退職者その他の政令で定める者については、その金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額とする。
このように給与法では、支給調整の上限額と下限額が定められており、所得が下限額に満たない場合は、全額支給されるが、上限額と下限額の範囲内のときは減額され、上限額を超える場合は、2回目が支給されず、しかも、上限額を超え、さらに現職当時の給与に相当する所得があるときは、1回目に受給した給付金を返納しなければならないのである。
すなわち、退職時に支給される1回目の給付金は、「とりあえず渡すけれど、まだ、将来の所得額が分からないので、支給が確定したものではないよ」という意味になる。そして、退職の翌年の所得額が判明して、はじめて給付金の額が調整により確定する。したがって、2回目の支給時期が退職した年の翌々年となるのである。これは、何度も繰り返し述べてきたが、給付金が退職後の将来の所得を補填する制度だからだ。
このように給付金の制度は、いわば将来の所得を構成する機能を有すると考えられ、過去の婚姻期間中に得た財産にはあたらないと解釈するのが妥当である。
もし、過去の婚姻期間中に得た財産であるとするならば、なぜ、減額や返納、不支給があるのか説明がつかない。
よって、給付金は、退職金とはその法的性質が異なり、財産分与の対象にはならないと、私は主張する。